しばらくすると、健先輩が提案した。
「そろそろ晴人くんを入れてあげようか。ずっとそこで待ってるみたいだから」
「はっ……うそ!」
健先輩が久しぶりに意地悪く笑い、急いで体を起こしてドアを開けると。
「だぁっ!」
扉に耳を付けていたらしい晴人が、衝撃を受けてうめいた。
「全部聞いてたの……?」
後半の、甘い言葉も全部。
そう考えると怒りが沸いてきた。
「さ、さぁ?何の事だか。まぁ、良かったじゃねぇか。メガネとヨリが戻って。めでたい、めでたい」
晴人は下手なごまかし方をする。
そんな晴人を、健先輩が手招きした。
「さて、明日の相談をしようじゃないか」
「明日?」
何の話?
見上げると、部屋に入ってきた晴人は苦々しい顔をした。
「晴人くんが、あのビラ……キミたちが近親相姦だとかいうアレ。アレを作った犯人を突き止めた」
「えっ!?」
健先輩が淡々と言う。
一体、いつの間に。
そう言えば晴人は、ちゃんと学校にも行ってたし、バイクで出かけたりしてた。
自分の事にいっぱいいっぱいで、晴人に毎日何があったかなんて、考えてもなかった。
「突き止めたって言っても……棚ぼたみたいなタレコミのおかげだけどな」
「色んな人の協力があったんだって。それで、キミが学校に来るなら、早いところ決着をつけようかと思って」
「ま、待って下さい。一体、誰なんですか、犯人って」
二人の顔を交互に見る。
晴人はうなだれ、健先輩は眉間にシワを寄せた。
そして、先輩の静かな声が響く。
「……とてもショックだと思う。僕も晴人くんも、キミに話すかどうか、少し悩んだ。けど、どうしてそんな事をしたのか話をしなきゃ、決着がつかない」
「ショックって……」
動悸が早まる。
手の平に汗がにじんできた。
一体、誰が犯人だって言うの……。
「彩花、僕がいる。僕も晴人くんもキミを守るから。どうか、気を強く持ってほしい」
健先輩の大きな手が、私の手を力強く握った。
そして告げられた犯人の名前は、私にとって、信じられないものだった。



