「晴人くんが、キミが僕の事を、夢の中でまで呼んでるって言ってたよ」
「ええっ!?」
晴人が、そんな事を……。
頬がまた熱くなってくる。
「……覚えてません……」
「何だ、そうか。そう聞いて、少し嬉しかったのに。嫌われたと思ってたから」
ふう、とため息をついた健先輩は、また眉を下げて笑った。
「き、嫌ってません!」
「そうなの?」
「先輩だって、あれから全然連絡くれなかったじゃないですか!」
「だから、嫌われたと思ってたし。この長い話をするには、里美と翔の事も話さなきゃいけないし。何より僕が、思い出すのが辛かった」
そんな事を思い出させて、洗いざらい話せ、なんて。私は何て傲慢だったんだろう。
シュンとしてうつむいてしまうと、健先輩の指がアゴにかかった。
そのまま、上を向かされる。
「……だけど、彩花だから話せたんだ」
「健先輩……」
「翔とあんな風に争ったのは、初めてだった。僕は翔にずっと負い目があったから。でも、キミだけは譲れないと思った」
ドクン、と心臓が鳴る。
それは一体、どういう……。
「キミのことは、晴人くんに聞いたよ。もう、放っておけない」
健先輩の目は、まっすぐに私を見ている。
その茶色の瞳に、私の姿が映った。
「僕に、守らせてくれないか。キミを」
「健先輩……」
「キミが、好きだ」
優しい声が頭に響いて、私の涙腺を刺激した。
引っ込んでいた涙が溢れてくる。
「うそだぁ……」
「……僕だって、人並みに落ち込んでたんだ。自分で修復不可能な事をしてしまったって」
晴人と同じような事を言ってる。
おかしくなって少し笑ってしまうと、こら、と健先輩がいじけたように、口をとがらせた。
「……とにかく。僕が里美より誰より守りたいのは、キミなんだ」
健先輩は咳払いして、また真剣な声を出す。
その顔に私の視線は奪われた。



