「それまでも僕と翔にとって、里美はお姫様だったんだ。その事件があってからは、一生守らなきゃ、と思ってた」
「そうだったんですか……」
健先輩は、笑った。
まだ幼かった、ずっと昔の事を思い出したように。
「だから、好きな人ができたと聞いた時は、少しショックだった。確か、猫を世話しに行ってた頃だな」
「あぁ……!」
そう言えば、そんな事もあった。
里美先輩が私達を置いて、先に帰るようになった時。
健先輩は、少し寂しそうな目をしていた。
「まぁ僕だって、彩花の事が気になってたんだから、人の事は言えないんだけどね。あれから色々あっただろ。美奈子ちゃんと喧嘩したり、写真事件だったり」
「ありましたね……」
「そのたびにうちに来て、相談してたんだ。そう言えば、修学旅行の時も、そうだったな。とにかく、それまでもちょくちょく家に遊びに来てた。父親は可愛い娘が来てくれると、喜ぶしね」
里美先輩はいつも、一人で消化して平気なフリをしてるように見えたけど、本当は普通に、へこんでて……一番信用しているお兄ちゃんに、相談してたんだ。
「大事な妹だから……晴人くんを見て、本当はいつもハラハラしてた。もし里美が、昔と同じような目にあったらどうしよう、と」
「…………」
「彼の周りはトラブルが多かっただろ。里美とつきあいだしてからも、彼は自分のスタイルを貫いたままで……。それであんなことがあって、冷静さを失ってしまった」
ごめん、と健先輩は頭を下げた。
「や、やめて下さい。そんな事情があるなんて思わなかったから……。私こそ、ごめんなさい」
まさか健先輩が謝ってくるなんて思わなくて、慌ててこちらも頭を下げたら、勢いが余った。
健先輩の額に、自分の額を思い切り打ち付けてしまった。
「いたっ」
「うわあぁ、ごめんなさい!」
「何やってんの……」
健先輩は苦笑して、顔を上げた。
その視線は優しくて近くて、思わずドキリとしてしまう。
そんな私の思考を見抜いたように、健先輩は笑った。
「……本当に、僕の事を呼んでた?」
「えっ?」



