「まぁ、そんな事があって……結局、父親とうまくいかなくて、あっさり中学でグレちゃったんだ。で、俺様バージョンが産まれたわけ」
「あらら……」
「しかも離婚したのに学区は変わらなくてさ。翔も里美も同じ中学だったんだ。小学校から持ち上がりのやつもいて、すごく居心地が悪かった」
その居心地の悪さは、少しわかる。
三つ子なんて、双子以上に興味の対象にされたんだろう。
「で、ここからが核心なんだけど」
「核心?」
「どうして僕が、妹の里美を特別扱いするか知りたいんだろ?」
「あ……」
そうだった。
あまりに衝撃的な内容が続いて、忘れてた。
「里美からお許しが出たから、話せるんだけど」
「……はい……」
健先輩は、深く息をつく。
固く閉ざした心の鍵を探すように、瞳が少しさまよった。
やがて、優しくも意地悪でもない、静かな声が響いた。
「中2の時。かなり僕は学校で幅をきかせてた。すると当然、面白く思わない連中が出てくるわけだ。彼等は僕には敵わない事がわかっていたから、里美を狙った」
「え……っ」
狙われたって……。
健先輩の眉間に、うっすらシワがきざまれる。
「里美は、レイプされそうになった。何人にも囲まれて」
「……!」
「僕と翔が駆けつけて、何とか事無きを得たんだけど。里美は、相当ショックだったんだろうな……。一時期、声が出せなくなってしまった」
里美先輩……よっぽど怖かったんだ……。
だからエッチな話題も苦手だし、晴人の事も拒否した。
ただ可愛いと思っていた里美先輩に、そんな事があったなんて。
何も知らなかった自分が恥ずかしい。
「まぁ、高校に入る前には回復したんだけどね。その時、僕は決めたんだ。僕のせいで里美を傷つける事がないようにしようって。だから昔の優等生モードに戻ったんだ」
「そうだったんですか……」
健先輩、すごく後悔したんだ。
そうだよね。一歩間違えたら、取り返しのつかない事になってたんだもの……。



