悪いけど、俺はどうしても、彩花にお前を会わせてやらなきゃならないんだ。

もうすっかり冬になった冷たい床。

俺はそこに、両方の膝をついた。

人生で初めて、誰かにひざまづいた。


「おい」


メガネが驚いた顔で椅子から立ち上がる。

俺はそのまま背中を折り、できるだけ頭を下げた。


「頼む……!」


さすがに周りがザワザワしだす。

好きなだけ見てろ。

どんなに無様でも、かまうものか。


「頼む、メガネ。彩花はまだお前が好きなんだ。彩花を救ってやってくれ……!」

「やめろよ……」


俺を立ち上がらせようとするメガネの声は無視し、額を床につけた。

冷たい床の感触がした。


「頼む、助けてくれ!俺じゃどうしていいかわからないんだ。力を貸してくれ……!」

「……里美」


メガネが里美に声をかける。

すると里美が、他のメンバーに指示をだした。


「ごめんね、今日はこれで解散。皆、帰ろう」


その場の空気の重圧に耐えきれなくなっていた彼等は、すぐに部屋を出ていった。


「やめてくれよ、こういうのは」

「お前が承知してくれるまでは、やめねぇ。頼む、彩花に会ってやってくれ。ほんの少し、言葉をかけてくれるだけでいいから。俺じゃ妹を甘やかすだけで、立ち上がらせる事はできねぇんだ……。あいつは、本当にお前の事が好きなんだ。頼む、代わりに俺ができる事なら、何でもするから……!」

「…………」


コツ、と靴が鳴る音がした。

そして、頭の上で声がする。


「今の言葉に嘘はないな?」


真剣な響きを持った声に、思わず顔を上げる。

そこには片膝をついたメガネの、まっすぐな視線があった。


「何でもするんだな?」

「あ、あぁ……する。何でも」

「わかった」


答えると、メガネはうなずいた。

そしてその細い体に似合わない力で、俺を立ち上がらせた。