俺は一晩中、考えた。
けど、どんなに考えても、何も浮かばなかった。
彩花を救う言葉が、何ひとつ。
代わりに浮かんだのは、かなり頭の悪い方法だけだった。
もう、あいつしか、頼れるやつはいない。
彩花が、夢の中にまで求める相手。
心の全部で、呼んでいる相手。
放課後、そいつがいるであろう部屋の前で、息を整えた。
目の前の扉には、『生徒会室』と書かれたプレートがついている。
もう、1日も遅れてはいけない。
彩花は生きる気力を失ったままだ。
このままでは、本当にダメになってしまう。
彩花のためだ。
俺は決心して、その扉を開いた。
「……何だ」
そいつは、冷たい声で言った。
同時に、部屋にいた全員が俺を見上げる。
その中には、俺が好きだった人……里美もいた。
けど、俺が視線を合わせるのは、生徒会長の間宮健だけだ。
会長であるメガネは、いきなり生徒会の会議中に乱入してきた不届き者の俺を、まっすぐにらんだ。
「会議中なんだけど」
「わかってる。話があって、来た」
「後にしてくれないか。迷惑だ」
他の生徒会メンバーが、ハラハラとした顔で、俺とメガネを交互に見る。
俺は視線を伏せたメガネに、一歩近寄った。
「……メガネ、頼む……」
俺の言葉が意外だったのか、メガネは顔を上げた。
「……何だって?」
俺はメガネが座る議長席の横まで、歩みを進めた。
「頼む……。彩花を、救ってやってくれ」
メガネはまた視線をそらし、ため息をついた。
「……何で僕が……。彼女はもう、僕の事を嫌っているだろ?」
「そんな事、ねぇんだよ……」
メガネの眉がぴくりと動いた気がした。
他のやつらは、成り行きを見守って、黙っている。
「……僕には無理だ。人を傷つけるのは得意だけど、救った事は一度もない」
メガネは絞り出すような言葉で、俺を拒否した。
そんなメガネを咎めるような視線で、里美が見ている。



