母親が慌てて着替えさせ、父親が部屋へ運んで、俺は無事に、ベッドの上で息をしている彩花と対面できた。
まだ、動悸がおさまらない。
さっきは、心臓が止まるかと思った。
風呂で寝たままのぼせた彩花は、額に冷却シートをつけ、ぼんやり天井を見つめていた。
「あ、晴人……」
やっと俺に気づくと、力無く笑った。
「は、恥ずかしい……やっちゃった」
「んっとによぉ……やめてくれよ」
意外にちゃんと話せる彩花の様子に、少しホッとする。
「寝るなよ、風呂で。一歩間違ったら水没してたぞ」
「そうだね……その方が良かったかも」
「またそういう事を……」
説教してやろうと思った。
しかし、彩花の目に突然涙が浮かんで、それはできなかった。
「……覚えてない……」
「あぁ?」
「いつお風呂に入ったのか、どうして寝ちゃったのか、全然覚えてない……」
彩花自身も、信じられないようだった。
それは、彩花の精神が、思っているより蝕まれている証拠じゃないだろうか。
つ、と背中に冷や汗がつたった。
「これから、どうなっちゃうんだろう……」
彩花はまた、ぐずぐず泣き出す。
俺は気休めに額を撫でてやる事しかできない。
「大丈夫だ。人の噂は49日っていうだろ」
「それを言うなら、75日……」
「そうだっけか。とにかくいつかは、誰も俺達に見向きもしなくなるから。な?大丈夫だって」
ふん、と鼻水をすすりながら、彩花はうなずいた。
「晴人……」
「なんだ?」
「一緒に寝てもいい……?」
「……はぁあ?」
信じられない言葉に目を見開くと、彩花は恥ずかしそうにうつむいた。
「お願い、家では一緒にいて。私今、何するかわかんないから……自分を傷つけたり、したくないのに」
「…………」
「怖いよ……本当に、覚えてないよ……」
そう言うと、またしゃくりあげてしまう。
「わかった、わかったから。その代わり、狭いからな?良いのか?」
「うん……」
要求を飲むと、彩花は安心した子供のような目をした。



