家に着いたのは、もう深夜だった。
何だか息が苦しい。
きっと、あの犯人が誰か、わかってしまったせいだ。
「晴人、帰ったの?」
階段を上がりかけると、母親がリビングから顔を出した。
「……ただいま」
「早くご飯食べてね、片付かないから」
「あぁ、先に風呂に入る」
「あ、ダメ。今彩花が……」
そこまで言いかけて、母親は、あっと息を飲んだ。
「何だよ」
母親の顔に、焦りの色が浮かんだ。
「彩花……もう1時間くらいお風呂入ってる……」
「はぁっ!?」
元気な時はそういう事もあったけど、今は大抵ざぶっと入って、すぐ出てくるのが常だった。
息苦しさが、耐えられないほどになる。
まさか、と思って、俺と母親は風呂に直行した。
「彩花!」
脱衣所から呼びかけるが、返事がない。
しょうがなく、すりガラスの戸を開けると。
「きゃああああっ!!」
母親が、代わりに悲鳴を上げた。
バスタブの中が赤く染まっていて、彩花はその中に、瞼を閉じたままうずくまっていた。
一瞬、何が起こったかわからなかった。
「彩花!おい!」
とにかく、彩花を浴槽から引き上げる。
母親が父親を呼ぶ声が、背後でした。
タオルを適当に被せ、暖かいリビングに運ぶ。
絨毯の上に寝かせると、母親が駆け寄った。
「彩花!彩花!」
その目からは涙が溢れる。
俺は呆然と、タオルから出た白い足を見ていた。
すると父親が、ある事に気づいた。
「……おい、こりゃ鼻血じゃねえか?」
「えっ!?」
てっきり浴槽で手首を切ってしまったと思い込んでいた俺と母親は、急いで確認した。
両手とも、傷ついていない。
その代わりに、顔の周りに赤い跡がついていた。
「なんだよぉぉぉっ……」
全身から力が抜けた俺と母親は、床にへたりこんだ。
「おーい、彩花。目覚ませー」
俺に似た父親が頬を叩くと、彩花はうっすらと目を開けた。
「ちょっ、お父さん、晴人、あっち行ってて!」



