「彩花!」


ヒナが悲鳴を上げた。

彩花が突然、廊下に倒れ込んだからだ。


「おい!」


呼んでも返事がない。

気を失ってしまったみたいだ。

俺はすぐに彩花を抱き起こそうと膝をつく。

しかしそれ以上の事はできなかった。


「僕が運ぶ」


いつの間にかメガネも膝をついて、俺の腕を制止したからだ。


「けど……」

「これ以上、目立たない方がいい」


きっぱりと言うと、メガネは軽々と彩花を抱き上げた。


「保健室に連れていくから……キミ、ついてきて」

「は、はい」


指名されたヒナと共に、メガネはさっさと彩花を保健室へ運んでいった。


「何だあいつ……」


わけわかんねぇ。

彩花の事を要らないと言っておきながら、三井も和樹もいるのに、自分で一番目立つ行動してんじゃねぇか。


「アニキ、早く。授業始まっちゃう」

「あ、おう」


俺達は、できるだけ貼り紙をはがしていった。

行く先々で、知らないやつらが俺を指差し、影で罵倒しているのがわかる。

そんなものは、別に怖くない。

ただ、彩花の事だけが心配だった。


「武内、職員室に来なさい」


貼り紙を粗方処理したところで、教師に呼ばれた。


「キミたちは、教室に戻りなさい。授業が始まるから」


三井と和樹は、困った顔をする。


「すまねぇな。後で礼するから、戻っててくれ」


それだけ言うと、俺は教師のあとをついて、職員室へ向かった。