「晴人、大丈夫?」
次の日、洗面所で彩花が声をかけてきた。
確かに、鏡に映る自分は、完全に怪我人だ。
口の端は切れ、ちぎられた片耳は、まるで中耳炎をやった子供のようにガーゼで覆われている。
おまけに頬骨にはアザがあった。
「大丈夫じゃねぇよ。誰かさんにシンクロして弱ったせいで、このザマだ。せいぜい発散してこいよ」
「もう……喧嘩するのが悪いんじゃん」
彩花はそう言って、俺の腕をぺち、と叩いた。
その妹は、既にしっかり着替えて、涙で腫れた瞼を冷やしていた。
俺が頼んだ通り、ヒナが彩花を遊びに誘ってくれたらしい。
女の子二人で遊ぶのは、久しぶりで嬉しい、なんて強がっている。
俺は、昨日の事は何一つ、彩花に話せなかった。
あんな写真を見せたら、またショックを受けてしまうだろう。
話をするのは、事実を確認してからで良いと思ったんだ。
そう。
今日来る、里美に。
はぁ、とため息が漏れた。
「もう、愛しのハニーが来るのに、なんて顔なの」
「うっせぇ」
「いいなぁ、里美先輩は……皆、独り占めしてさ」
彩花はまた、泣きそうな顔をした。
メガネが里美を一番大事に思ってる。
それが悲しいんだろう。
しかしすぐに、首をふるふると横にふった。
「なんて、ウソ、ごめん……。お願いだから晴人は今まで通り、里美先輩とラブラブでいてね」
「なんだ、そりゃ……」
「……へへ、なんだろうね……」
気を使ったつもりなんだろう。
彩花は力なく笑うと、「そろそろ時間だから」と、出かけていった。
途端に、心が重くなる。
何をどうやって、今まで通りにすりゃ良いんだ。
モヤモヤと悩んでいたら、すぐに約束の時間が来てしまい、玄関の呼び鈴が鳴った。



