「私が誰にも言わないでって言ったの。大したことないから」
里美先輩が、私を庇う。
「……僕のクラスに、こんなものが回ってきたけど。これでも、大した事ないか?」
健先輩は制服のポケットから何かを取り出し、ただの紙切れのようなそれを、机の上に広げた。
「何これ……」
その紙は、パソコンで作ったようだった。
上半分に、駅でキスをする晴人と里美先輩の写真が取り込まれていた。
下半分には、何の根拠もない里美先輩の悪口が、ずらりと並んでいた。
大人しい顔をして、中学から何人もの男の子と関係を持っているとか。
この前トイレで言われたような事とか。
とにかく、女の子としては聞くにたえないような暴言で埋めつくされていた。
「もう先生には報告したけど。彩花だけじゃなく、里美までこんな被害を受けたら、もう黙っていられない」
このビラの存在は、里美先輩も知らなかったらしい。
小さな唇が、恐怖によってか怒りによってか、小刻みに震えていた。
「その対処法を僕なりに考えた。彩花の件で、僕や翔が何を言っても無駄だったのと同じだ。犯人探しに意味はない。というか、首謀者はいない。彼女達は、何でもいいから、いじるネタがある人間を槍玉に上げるだけだ。そして周りがそれに便乗していく」
「……じゃあ、どうしたらいいの?」
里美先輩の質問に、健先輩はきっぱり答えた。
「……晴人くんと別れるしかない」
「……えっ……」
里美先輩は目を見開いた。
私も驚きで声が出ない。
「もちろん、僕も彩花も人前で一緒にいるのは避けるようにする。それで、噂が沈静化するのを待つしかない」
えっ?
そんな話、聞いてないよ……。勝手に決めないで……。
戸惑う里美先輩をよそに、健先輩は淡々と話し続ける。
「だけど、里美は別だ。相手が悪すぎる」
その言葉は、里美先輩だけじゃなく私の心にも、ぐさりとキズをつけた。



