息を整えた里美先輩が、顔を上げた。
「……もう、とっくに……してるかと思ってた……」
「ぜーんぜん。仲良しだけど、そういうのは無いの」
「そう……彩ちゃんは不満なの?」
「不満じゃないけど、不安」
相手が女の子だからか、素直に話す事ができた。
「別に無くても幸せなんだけど。健先輩は、良いのかなぁって……私は何もしてあげてないなぁって、思うんです」
里美先輩は苦笑して、口を開く。
「健くんは、そういう見返りを望んで、彩ちゃんに優しくしてるんじゃないと思うけど」
それは晴人もじゃん、と思ったけど、黙っておいた。
「大事なんだよ、きっと。彩ちゃんが大事だから……その、慎重になってるんじゃないかなぁ?」
こういう話が苦手な里美先輩が頑張って話してくれるから、少ない言葉でも、説得力がある。
「……やっぱり?」
「うん。そうだよ、きっと。良いなぁ、彩ちゃん。大事にされて」
「先輩だって……」
「わ、わわわ、私の事はいいのっ。さ、そろそろ行こう」
少し早めに生徒会室を出て、一緒にトイレに寄った。
用を済ませて個室から出ると、里美先輩が先に手を洗っている背中が見えた。
すると女生徒が3人入ってきて里美先輩を見つけ、ヒソヒソと言ったと思うと、いきなり蛇口をひねり、水の出口を、指で押さえた。
水はその指によって勢いをつけ、里美先輩の横顔を濡らした。
「ちょっと!」
思わず駆け寄る。
里美先輩は呆然としていた。
「何するのよ!」
里美先輩を庇うようにして怒鳴ると、女の子達は、薄笑いを浮かべた。
「ごめんね、手が滑って」
「嘘!完璧わざとじゃない!」
言い返すと、違う女の子がこちらをにらむ。
「うぜぇんだよ、生徒会」
「……はぁ!?」
私が言われるのはわかるけど、何で里美先輩まで。
怒りが頭に昇っていく。
相手は私より弱そうな里美先輩に話しかけた。
「あんたの方が、そいつよりタチ悪いかもね」
「えっ?」



