晴人に連れて行かれたのは、小さな頃、家族とよく行った海だった。
堂々と制服で学校をサボる事なんて、今まで考えた事もなかった。
ましてや、晴人と一緒になんて。
海岸の砂を踏みながら、私達は歩いた。
私は何も言えなかった。
晴人も何も言わなかった。
ただ、その大きな手が、私を導いた。
やがて疲れた頃に、私達は海岸と道路を繋ぐ階段に腰かけた。
太陽はまだ、天高くにある。
「……親父には俺が叱られるから」
晴人が、ボソッと言った。
時計を見ると、ちょうどお昼。
もうとっくに、家に連絡がいっているだろう。
「ううん、私も一緒に叱られるよ」
「ははっ、ガキの頃みてぇだな。久しぶりにそろって叱られるか」
笑った晴人の顔を、久しぶりに見た気がする。
潮風がその髪をさらい、いくつも開けられたシルバーのピアスがキラリと光った。
そして余計な事は言わず、黙って海を見ている。
不器用な、その優しさに胸が熱くなった。
里美先輩が、晴人を好きになった理由が、少しわかった気がした。
いつの間に、こんな男になったんだろう。
里美先輩を好きになってから、晴人は弱くなったと思ってた。
だけど、違った。
元々優しかった晴人に戻っただけじゃなくて、誰かを守ろうとする強さを、いつの間にか兼ね備えてた。
「不思議だね……」
「何が?」
「お互い好きな人ができるまで、ろくに話もしなかったのにね」
「そうだったな」
晴人は苦笑した。
「晴人、里美先輩を好きになってから、優しくなったね」
「はぁ?バカ、俺は元々やさしーんだよ。お前はメガネに牙もトゲも抜かれて、つまんねぇ女になっちまったな」
「ひどぉい」
「ツンツンしてた昔より、俺は今の方が絡みやすいけどな」
そこからも、特に重要な話しはしないまま、ただぼんやりと時間を過ごしただけなのに、何故か全く、苦痛じゃなかった。
「……6時ごろだっけか、バスが来るの……」
赤い太陽が、海と溶け合った時に、晴人が呟いた。



