無事に体育祭は終わり、長袖の季節が来た。
スカートの裾を翻す風は、少し冷たくなってきて、一緒に帰る健先輩との距離も、心なしか縮まったように思えた。
と言っても、体育祭で三井先輩とのトラブルにあって以来、私は気づいてしまった。
健先輩は、自分の話を一切しない。
話すのは、生徒会の事や、私の事。
自分の過去の思い出や、家族の事は、話さなかった。
私も、普通に聞けばいいんだけど、なんだか、触れてはいけない気がして。
そこまで心を開いてもらえない自分も、聞く勇気がない自分も不満だった。
けど、いつかは、話してもらえる日が、きっと来る。自然に聞ける日が来る。
そう信じて今日も、自転車を押す健先輩の横を歩きながら、秋の夕空を見上げた。
「あっ!」
校門を出たところで、ふといつもの帰り道と逆方向を見たら、すっごく見覚えのあるやたらデカイ男子生徒と、小さくて細い女子生徒が並んで歩いてるのが見えた。
「ほう、あれは」
「晴人と里美先輩!」
私達より先に生徒会室を出た里美先輩と、帰宅部のはずの晴人。
これは珍しい光景だ。
健先輩を見上げると、彼はにやりと笑い返してきた。
「ちょっとつけてみようか」
「賛成!」
私達は二人を追いかけて、微妙な距離をとった。
最近晴人は、バイトが無い日、帰りが遅い。
ちなみにバイトは週2で、近所のガソリンスタンドなんだけど。
もしかして……。あいつ、毎日里美先輩を駅まで送ってるとか?
「あっ!」
「しっ!」
思わず声を上げて、健先輩に口をふさがれてしまう。
幸い、二人は気づいていないようだ。
何で声を上げてしまったかと言うと……。
先に里美先輩が、晴人の指先をつついたんだ。
すると晴人が、その小さな手を、優しく握った。
「て、て、手繋いでますよ……」
「そりゃ繋ぐさ。つきあってるんだから」
そりゃそうだけど。実際に目の前で見ると、衝撃映像だ。
あの晴人が……何十人と殴った手で、里美先輩の手を繋いでる……。