「貧血かな」
体育委員が困ったように言う。
「誰か、保健室に……」
「じゃあ、俺が連れていく」
ガラの悪い俺を見て、体育委員はどうしようかと迷った顔をする。
そこにもう一人、駆け寄ってきた。
「委員長、彼なら僕の知り合いだから大丈夫だよ」
聞き覚えのある声が頭上からして、顔を上げる。
そこにはメガネがいた。
体育委員はメガネの言葉にホッとして、「じゃあ、よろしく」と言い、自分の仕事に戻っていく。
周りがこちらを指差して、ザワザワとしはじめた。
「じゃあ、行くぞ」
里美は返事もできず、小さくうなずく。
俺はその小さな体を抱き上げた。
……最初の時と同じだ。
「晴人くん、よろしくね。ほら、注目浴びてるから早く」
「あ、あぁ……」
里美を抱えてグランドから出ていくと、すれ違った人間が好奇の眼差しでこちらを見る。
「お姫様だっこだぁ」
なんて、クスクス笑う声まで聞こえた。
俺はそれを全て無視して、保健室に急いだ。



