「……どうして止めたの?」


いつもの優しい声が聞こえて、我に返る。


気づけば私は、健先輩の腕に巻きついたままだった。


パッと手を離すと、健先輩が正面から私を見つめる。


「だって……先生に見つかったりしたら、健先輩の立場が……」


モゴモゴ説明をすると、健先輩はふぅと息をついた。


「そう、僕の心配をしたんだ。それならいいけど」


そう言って、私の肩を抱いた。


突然の事に、体が固くなる。


「先輩……!」


こんなところじゃ、誰かに見られちゃうかもしれない。


心臓がドクドクと警鐘を鳴らす。


「奪われたものは、奪い返さなきゃね」


耳元に、声と一緒に温かい息がかかって、体がピクリと震える。


あごに指がかかったかと思うと、そのまま上を向かされ、噛みつくように、唇を奪われた。