「先輩に謝れ」


目があうと、美奈子は怯えたような顔をした。


「お前が先に喧嘩を売ったんだろうが。謝れよ」


「もう良いよ……晴人くん」


里美が俺に声をかけると、美奈子がまた牙をむいた。


「良い子ぶらないでよ!あたし、先輩みたいな人、嫌い!」


その声で俺は、久しぶりに、キレた。


「テメェ、今なんつった?」


にらみつけると、美奈子は真っ青になって、口を閉じた。


「……里美が何したっつうんだよ。お前は俺の彼女か?違うだろうが。
これ以上、意味がわかんねぇ文句つけんじゃねぇ」


「晴人くん……」


美奈子は泣きそうな顔で俺を見上げる。


しかし俺の怒りはおさまらなかった。


「お前みたいな奴とは、友達でいるのもお断りだ。二度と話しかけんじゃねぇ。わかったか」


そこまで言ってやると、美奈子は黙って背を向け、一人で歩いていってしまった。


彩花がその後を追う。


残された俺は、里美の顔をみる事ができなかった。


「悪かったな……少し仲良くしただけのヤツの為に、嫌な思いさせて」


何とかそれだけ言うと、一人で駅へ向かった。


本当は、泣きそうな声を出した里美の手を引いてやりたかったけど、俺にはそんな資格さえない気がした。


彼女の気持ちが早く軽くなるといい。それだけを思った。