「あたしは今、晴人くんに話したんだけどな」

「美奈子ちゃん……」


さすがに彩花が眉間にシワを寄せる。


里美は戸惑った顔をしたが、すぐに申し訳なさそうに口を開いた。


「そうだね、ごめん……」

「別に謝る事ないけど……。先輩って、なかなかやるよね。生徒会長とも仲良いし。意外と遊び慣れてるんだね」


向けられたのは、明らかな敵意。


それを受けた里美は、彩花と同じように眉をひそめた。


「どういう意味?」


「先輩はモテてうらやましいなって意味。仲が良い男の子がたっくさんいて、良いね」


二人のやりとりを、彩花はハラハラした表情で見守っている。


ただ俺は、怒りが腹の底にたまっていくのを感じていた。


「美奈子ちゃん、晴人くんの事が好きだから、そんな意地悪言うの?」


里美の言葉に、心臓が跳ねる。


「……だったら何?」


美奈子が、冷たい声で聞いた。


「もうやめよう。美奈子ちゃん、先輩に謝ろう」


彩花が青い顔で美奈子を制止する。けれど、里美は質問をやめない。


「そうやって、晴人くんと少し仲良くしただけの人、全員に噛みつくの?」


少し仲良くしただけの人……。


里美の言葉は、俺の胸に暗い影を落とす。


「心配しなくていいよ。私は、本当にただの友達だから」


「じゃあ何で、そんなムキに……」


「もうやめろ」


気づけば、口からただ一言だけ滑りだしていた。