「意外……新しいバイクでも買えとか言うのかと思った」
「あたし、賛成!猫好きだもん!お父さん、飼ってあげようよ。晴人がせっかく人間らしい気持ちを持ったんだから!」
人間らしいって……今はなんなんだよ。お前の方がよっぽど人でなしじゃねぇか。
「捨て猫か……どんな猫なんだ」
「メスの白猫。まだ子猫」
「お前、面倒見れるのか」
「……見る。けど、学校あるし、経済的にも……協力してほしい。頼む」
頭を下げると、父親はふん、と息をついた。
「母さん、どうする?」
「うーん……まぁ、お父さんが良ければいいけど」
「じゃあ、いいか。だけど、途中で放るなよ。死ぬまで面倒見ろよ、晴人」
おお……意外とあっさりOKが出た。
多分彩花の言葉の影響が大きいんだろう。親父は彩花に甘いからな。
「じゃあ、連れてくる」
言うなり俺は外に出て、公園まで走った。
夏の夜空には月がかかっていて、俺の行く道を照らす。
ポケットで揺れるスマホを取り出し、走りながら操作した。
『もしもし?』
「里美?うちでユキ、飼える事になった!」
『本当に!?』
「おう!」
良かったぁ、と言った里美の声が聞こえた。
こんな俺でも、役に立てる事がある。彼女を笑顔にする事ができる。
そう思うと、胸がほわりと暖かくなった。
誰かの為に何かをしたい。
今まで知らなかった。
こんな感覚が、この世の中にあるなんて。



