「これからは、普通で良いからね?」
「……おう」
「あと、アンタとか先輩とかより、名前がいいな」
……こいつ、俺を殺す気か。
もう既に1日分の鼓動を打っちまったってのに。
「……さ、里美……姉さん」
「姉さんて……その筋の人みたい。呼び捨てでいいよ」
「……里美」
「はい、合格」
何とかしぼりだした声はかすれてしまっていたけど、彼女はそれを聞いて、にこりと笑った。
「武内くんは、ハルトくん……だよね?プールの時、皆がそう言ってた」
「そう。晴れた人って書いて、晴人」
「じゃあ……晴人くん」
うっ……なんつう破壊力。
ヒナにも美奈子にも名前で呼ばれてるのに、何で新川先輩……いや、里美に言われると、こんなに恥ずかしいんだろう。
「ユキ、ミルク飲まないの?」
俺の気持ちをまるで知らない里美は、あっさり話題を変えた。
「あ、あぁ……夏バテかもな」
「そう……そろそろ本気で新しい飼い主、探さなきゃね」
里美は寂しそうにうつむいた。
俺も考えなきゃいけないとは思っていたが、情が沸きすぎてしまい、もう会えないと思うとなかなか決断できなかった。
きっと、里美もそうなんだろう。
「……うちの親に相談してみる」
「えっ?」
「生き物飼った事ないから、わかんねぇけど……一応、聞いてみる」
「いいの?」
里美は目を輝かせた。
「あんまり期待するなよ」
「うん……ダメ、やっぱり期待しちゃう。晴人くんのとこならユキも幸せだよねぇ?」
ユキは返事をするように、にゃあ、と鳴いた。



