猫が、にゃあと鳴く。
とにかく何か話そうと口を開いた瞬間、腕に冷たい雫が一筋流れた。
見上げれば、雨雲が次々と雫を地上に送り込もうとしていた。
「げっ……降ってきた」
「わぁ、どうしよう、にゃんこ……」
新川先輩は、子猫を濡らさないように、優しく胸に引き寄せる。
「倉庫の鍵は?」
「ごめん、今日はないの……」
「じゃあ……こっちだ」
裏庭に面した校舎と高い壁の間に、先輩の手を引いて走る。
たまに授業をサボるために利用している場所だ。
猫を見られてはいけないし、たしか、少しは屋根があったはず……
しかし、次第に強くなる雨を完璧に防げるほどの効果はなかった。
「武内くん、帰っていいよ。あたしはこの子をどこかに隠さなきゃ……」
二人で校舎の壁に背中をつけていたが、風向きのせいか、外壁の上から雨が降りこんでくる。
前髪を少し濡らしてしまった新川先輩が、申し訳なさそうに言った。



