「和樹くーん♪」
茶髪のショートカットで派手なメイクの女に名前を呼ばれ、和樹は手をひらひらとふって、席を立った。
「じゃあね、晴人」
「まて……あれ、何だ」
「ん?ガールフレンドみたいな?」
「は?彩花はどうすんだよ」
「だって彩花ちゃんは会長さんが好きなんでしょ?もー脈ないところに固執するよりは、楽しく皆と遊んだ方が良いじゃない」
あっけらかんと言うと、和樹は笑って、女と廊下に出ていった。
……何だかなあ。どいつもこいつも器用だよな。
この世でこんなに不器用なのは、俺だけなんだろうか。
薄暗くなった教室に引きずられて、心にまで雲がかかる。
「……帰るか」
俺は一人で、家路に着いた。
6月の湿った空気が、肌にまとわりつく。
それを不快に感じていたら、もっと不快な光景が目に飛び込んだ。
正門のところに、昼間に頭突きを食らわせた2年生がたむろしている。
めんどくせぇ……。
くるりと背を向け、別の門へ向かった。
ちと遠回りだが、面倒な事になるよりはいい。
裏庭を通って、武道場の方から出ていこうとした。
すると、裏庭にさしかかったところで、みるみる空が暗くなってきた。
しかし、そこにいた人のおかげで、景色は何故か明るく見えた。
その人物は、裏庭のスミで、うずくまっている。
小さな体を、ますます小さく丸めて。
「……先輩?」
「きゃあっ!」
声をかけると、その人物……やはり新川先輩だった。
新川先輩は驚いて飛び上がった。



