リタは思った。


ヨゼフの行動が、不思議だったからだ。


全ての穴に水を注ぐとヨゼフは汗を拭き、手を交互に打ち鳴らした。


「ここからが本番さ!」と叫びながら、彼は槍を十回転させ、地面に突き刺す。


すると、フィアロスの足元が揺れた。


やがて彼の足元は、稲妻の模様を描くように割れ、中から水しぶきをあげる。


「名付けて水系呪文、≪円陣水しぶき≫さ!」


ヨゼフは叫ぶように言った。


(なるほど。あの時オアシスで水を調達してたのは、呪文を繰り出すのに必要だったからなのね。やるわね、ヨゼフ)


ナンシーは、先程ヨゼフが取った行動を見ていて、頼もしいと思った。


「やるな。流石は我が領国で鍛えてただけのことはある。今日はここで撤退だ」


と言い残して、火系魔道師はレザンドニウムに戻った。


(逃げられたか。でも、砂漠や砂龍城の安全は確保できた。今回は、これで良しとしよう)


リタはしばらく、フィアロスが去った方向を見つめていた。


「リタ、地下神殿に行くよ」


「置いて行くなよ。ヨゼフ、ナンシー」


リタは二人に催促され、慌てて走る。