"約束の地(カナン)"が、仮初のうちに秩序を見せ…1つの世界として機能し始めたたのはそれからまもなくのこと。
本能任せの者達も、偽りの"自意識"を与えられ、荏原の作ったという機械の"刹那"が力によって統制を始める。
バラバラのパズルが、無理矢理にでも1つに纏まるその様は、見事なもので…私もその中に組み込まれていったのだろう。
知らぬ間に。
それが荏原と刹那様の持ち得る幻術で。
だけど思えば、部分的な秩序は…あの赤い女がもたらしたのだ。
未来を無くしていた私達に、"目的"という指標を与えたのは彼女。
女が去った後、旭の口調が男染みた。
――あのヒトと約束した。大切なものを守るために。
この場所で。
女に虐げられるこの場所で、あえて"男"のふりをした旭の心は判らないけれど。
守りたいものの中に、月も含まれているのだろう。
彼の口調も、"女"になっていた。
――お互いが真似すれば、皆だって…本当だって思ってくれるでしょう?
――刹那様と久遠様ように。
そう笑う様は、酷く大人びていた。
"目的"は"力"となり、連鎖する。
旭と月の"目的"は、私にまで生きる意義を問い質す。
――蓮、刹那様を守ってね。
旭は言った。
――もう刹那様が、あんな怖い思いをしなくてすむように。

