――女が何だ、男が何だ。それに拘るのは、守りたいものが出来た時に言え!!! 生意気な小童が!!!
そう、司狼に恫喝していたのを聞いた。
――全く、何だというのだ此処は。ああ、芹霞。早く手当てしてやるからな。早くゆっくり横になれる清潔な場所に連れてやる。私の結界で峠は過ぎたとはいえ、予断は許さん。頑張れよ、芹霞。坊もお前を待っている。
溺愛、というような口調の赤い女。
その時の私達は、そんな優しい女の口調とは裏腹に、力で強引にねじ伏せられていて。
――刹那…久遠? 生きていたのか、お前!!!
刹那様の姿を見て顔を緩ませた女。
刹那様は無表情のまま彼女を見て…そして手の中に居る少女を見た時、
――悪いが、お前達の記憶は消させてもらった。
その時、少女が何かを呟いて。
刹那様の瞳が、またあの赤色に変わった。
そして元に戻る瑠璃色の瞳。
――芹霞が埠頭から落ちて、此処に流れ着いた。中々の場所だな、芹霞がこんな状態だ、私は長居してる暇もない。お前も早く此処を立ち去るがいい。何だか判らないが、凄い瘴気が立ち込めているじゃないか。
女は船で立ち去った。
刹那様はずっとその船を見送っていた。
――せり…。
呟かれたその名前。
立ち竦むその寂しげな後姿。
ああ――まさか。
刹那様は、あんな小さな少女を待っていたというのか。

