教室に入ろうとしたときだった
私の知ってる香りがして、はっとして顔をあげる。
その香りは小野寺くんのあの石鹸の香りで
私はまたすぐに顔を俯けた。
なんつー、気まずさ。
昨日の惨めな私の姿を全部見たのは、
この小野寺くんだけで
だからこそ余計に恥ずかしい。
「おはよ」
けれど、そんな私のことなんか知らないで、
なにもなかったかのように小野寺くんはそう言った。
でも今の私には、そういう対応が一番キツイ。
変に気を使わせてしまっているのかと思うと、更に恥ずかしくて仕方が無い。
「……おはよう」
だから小野寺くんのことなんて見ないで
私はすれ違い様にそうつぶやいた。
まるで独り言のように。
なんて態度だ、と自分でも思う。
きっと嫌な奴だと思われたに違いないよね。
でも私は、感情を殺してまで愛想がふりまけるほど強くはない。