「それでさー、
褒めてくれる?葵ちゃん」
「なにが?」
すると伊織は
にやにやとしながら鞄の中からアイロンを取り出した
「なんで持ってきてるの?って聞いたほうがいい?」
「いやあ
葵ちゃんのためにわたくし伊織は持ってきたんですよー」
「なんなのその口調」
「いやだってほら、あの小野寺くんの前に立つわけだからさ
可愛くなりたいでしょ、うん」
「まあ…それは…」
「ってなわけで終礼終わったらトイレに直行ね」
そんなふうにとんとん拍子に物事が進んで行くから
正直言って私自身がついていけていなかった
たしかに、小野寺くんと一緒に勉強すると聞いた時は
心臓が小さく跳ねたけれど
それは
王子と呼ばれるような人
と一緒に勉強するからというだけで
緊張するのも無理もないというか
それしたって、どうして私はいちいち考えこんでしまうのだろう
流れに身を任せることができたのならいいのに
このまま小野寺くんのことだけを
見て
かっこいいだの王子様だの
きゃあきゃあと騒ぐことができたはいいのに
それなのに私の目は
どこかに雅也はいないかと
探してしまう
雅也の声を、探してしまう

