「な、ななななんでもない。ごゆっくり」

私は柚木君の持っているプリントを奪うと、胸にギュッと抱きしめ、ダダダダッと駆け出した。

──のに。

ずだだだだーんっ。

派手に転んだ。

プリントはぶちまけて、廊下に大の字。

穴があったら入りたいというのはきっとこの事。

どこでもドアでもいい。

ドラえもん助けて。

「ったく。何勘違いしてんだか。肝心なとこ抜けてるのはあんたも柚木も同じだね」

どんなに呼んでもドラえもんが来るはずもなく。

情けない私を起こしてプリントを集めていたのはナカちゃんだった。

ナカちゃんの長い髪がユラユラ揺れて、窓から差し込む朝日にキラキラ輝いている。

そっと髪を耳にかける仕草も大人っぽい。

ちんちくりんの私は『どうかこんな姿柚木君の目に映りませんように。それが無理なら柚木君の記憶からこの瞬間を消して下さい』と祈るだけ。