「君菊さん…。」「はい…。」
後ろから声がした。
「今日…空いておるだろう。」「へぇ…。」
最初はよく分からなかった。
「女将さん?」「へぇ…。なんでしょ。」「今日一晩、君菊さん…お借りしてもイイかのぉ…。」「はっ…。その…。」「おおー!岡城さん、やりますなぁ。」
最初はよく分からなかった。最後まで分からなければ良かった。
「君菊…良いのかい…?」「へぇ…。よくわからねぇけど…。」「足りるかい?」
すると、女将さんの前に光る小判を置いた。
女将さんはこっくり頷き、その場を去った。
その後はまたお酌をとり、三味線を弾き、終わった。
外はやたら暗く、寒かった。
「ほな、また。」
私はまた店に戻ろうとした。
そのとき、後ろから手が伸びてきて、私の腕を掴んだ。
「君菊さん…。それは詐欺じゃねえかいな。」「へ?」
「イイから。」「痛っ…!」
腕を掴まれたまま、下駄を引きずられた様だった。
「ヤダッ!離して!」「芸妓のくせに変な話し方…ほぉ。」
ボサボサの髪の毛。
真っ暗でなにをされるか分からない。
「痛っ!!」
イキナリ髪を掴まれ、もうどうにもできない。
誰か!助けて!
その時、土方さんの言葉が蘇った。
お前は1人で生きていける。
涙の裏には土方さんの笑顔。
自分の身を守るには…この人の言うとうりにするしかないのか。
涙ぐむ中、藻掻くのをやめた。
「おりこうじゃないか。ほら。」
ビリッ…。
はだけた着物の下の薄着を破った音がした。
風通しがしてやけに寒い。
「ッ!」
身体をつたわる太い指。
気持ち悪い。
ヤダッ!
「や…めて……くださ………い…」
やっぱり無理。
「はぁ?コッチは客なんだ!」





「いーから…離してやれよ。嫌がってんだろぉが。」
また…。大好きな人の声が耳に響く。
「土方さん…。」