幕末恋絵巻〜叶わなかった運命の恋〜 土方歳三 君菊 編

「ンッ…」

目を開けるたび、土方さんの瞳が写る。
苦しくて切ないものだった。
「ンッ…。やっ…。」「ッ…!」
離しても、また土方さんの顔が近づく。
「いや…!」
そう一言叫ぶと、土方さんは、我に返ったような感じだった。
「悪かったな…。」
そう一言残し、松島屋を去って行った。
私はその場に立ち尽くし、ずっと、ジワジワ暑くなって行く唇を抑えながら、涙を流した。
土方さんは私の事…。
そうだったら嬉しい。けれど…。
芸妓となんて、周りからどう見られるか分からない。
この恋は諦めるはずだった。
全部貴方のせい…。
私の前に現れたりしたから。
夜の街中、一人立ち尽くす芸妓。
後ろから話しかける人がいないわけなかった。
「行っておいで。」
後ろには美紀さんが立っていた。
手には土方さんの羽織り。
涙を溜め、羽織りを抱えて屯所へ走って行った。


「開けてください、開けてください!君菊…。咲と申します!」
誰も開けてくれない。
静まり返った屯所。
そう言えば…。
隊士は今日、松島屋に…。
誰か残っていないかなぁ…。
また、叫んだ。
すると低い声で、大好きな声が耳に響き渡った。
「入れ。」
土方さんだった。