「絶対に…ですよ?もしも破ったりしたら…。わかっていますね?もちろん、後ろの2人の家も、路頭に迷うことになる…ということを忘れないでくださいね」


最後の仕上げとばかりに言葉の刃をたたきつけた。

その言葉を聞いた3人は…半泣きになりながら、コクコクと頷いて走って逃げていった。

…恐るべし…というか、なんというか…。

敵にはまわしたくない人ね。

じーっと、3人が逃げていった方を見ている東雲渉を凝視する。

すると、突然東雲渉がこちらを振り向いて私の目の高さまでしゃがんできた。

そのせいで、思わずビクリと体を震わせてしまう。

しかし…至近距離で見たその瞳は、もう先ほどのような冷たさをはらんではいなかった。


「…大丈夫か?」


…あ…。

その言葉を聞いて、あることに気がつく。


「腹黒王子…ね」

「は…?」


意味が分からない、とでも言うかのようにポカンとしている東雲渉。

その顔を見て、ついクスッと笑ってしまった。


「いつもは誰にでも優しくて、王子なんて呼ばれてるくせに…意外と、中身は黒いのねってこと。だから腹黒王子。ま、でもそうじゃないと将来東雲をまとめるなんて出来ないんでしょうけどね?それに…しゃべり方だって、普通の男の子のようにできるんじゃない」


そう言うと、東雲渉はバツが悪そうに頭をかいて、私を見た。


「それを言うなら…君だって、気は強いし、結構わがままだし…」


それは間違っていない。


「確かにそうね。…でもね」

「なんだよ」


ぶっきらぼうに言う渉を見て、口が自然と笑みを描く。


「私は、人形のような笑顔を張り付けて、丁寧なしぐさで接してくる『東雲渉』より…今の、腹黒王子の『渉』のほうが、よっぽど好きだわ…」

「………!!」


目を見開いて驚く渉。

こんな表情を、出会ってから今までの中で一度だって見たことは無かった。