Nさんという看護師の話だ。


面会時間は終わっているのに、大部屋のベッド横に面会人がまだいた。

髪の長い、黒っぽい女性だった。

患者さんをのぞきこむようにして腰を曲げ、くの字に体を折って顔を近づけている。

長い髪が患者さんの顔にかかっていた。

その患者さんは植物状態の重篤な人だったので、時間も忘れて家族が熱心にしているものだと思ったNさんは少しの時間オーバーを黙認することにした。

しばらくして訪床すると、まだいる。

さすがに注意しようと近づくと、すっと、カーテンの陰に隠れた。

面会時間オーバーなのを知っているのだと思った。

こちらの気持ちも知らないで、するりと場を逃れようとするそのしたたかな行動に、少々腹がたった。

足早に近づき、カーテンを引っ張る。

シャッと音をたてて視界がひらける。



「面会時間、終わってますよ!?」




誰もいなかった。