やはり何の役にも立っていない。

それを自覚した。

荷物持ちという名目は私の遠慮を緩和するために彼が与えてくれた言い訳だろうという事は薄々わかっていた。

けれど役にたつつもりだった。

私としては。

なのに彼は、野菜、魚、米に至るまですべて『重いから』という理由で渡してはくれなかった。

それに対し私が困惑した顔をしたので、気をつかってくれたのだろう。

比較的軽い、卵だけ持たされる。

せめて買い物の手伝いができればいいのだが、私はものを『見る』目が絶望的になかった。

新鮮か否かくらいの目効きはできるが、そのものの最上の『美味しい状態』がわからない。

大根などは新鮮なほうが美味しいらしいが、南瓜などは収穫してからしばらくおいたもののほうが甘いそうだ。

底魚のようなものは漁ってすぐの活きのいいものが美味しいらしいが、島鯵のようなものは一日おいて油を馴染ませたほうが美味しいらしい。

そういう判定がまったくできない私は、結局なにもできなかった。

そんな私に気をつかわせないように自然にふるまう彼の隙のない親切が、痛かった。

彼にとっては任務の一環であろうその気遣いは私には温かすぎる。

それをきっと、この人は知らないのだ。

彼は優しい。

蕩けるほどに。

そうしてその優しさに触れるたび私の胸は締め付けられる。

その痛みはどこか甘くて、私は眩暈を覚えた。

卵を持ちながら面映ゆい心持ちになって街を見つめる。

街は鮮やかだった。

様々な音と、様々な熱と、様々な色が混ざり、舞っていた。


『生きている』。


街というものを一言で言うなら、そうなると思った。

ほとんどの時間を自分の呼吸音しか聞いてこなかった私にはこの世界は鮮やかすぎた。

何もしていないのに心が明るく浮き立つ。

耳を澄ませても自分の呼吸の音が聞こえない。

なのにどの時よりも生きていると実感させられる。


私は生きてここにいる。


それが、奇跡のように眩い事に思えた。

そんな私を見つめる彼の瞳がひどく優しいことに、彼の思惑を見る。

嗚呼、彼は見せてくれようとしたのだ。

この世界を。

あざやかな外界を。

買い物は言い訳で。

荷物持ちも建前で。

ただ彼はこの美しい世界を見せてくれようとして私をここに連れて来たのだ。


私の

ために。