頑なに提案を拒絶すると、彼は小さく息を吐いた。


「買い出しのついでなので構わないのですよ」


嘘だという事は私にだってわかる。

彼の役目上、火薬や鉄などの消費が出るのは理解できる。

しかしそれらは街で扱うようなものではない。

彼は街になど用はない。

私に威圧をかけないために、そんな嘘を言っているのだ。

私のせいで瑣末な嘘をつかせていることに、胸が痛んだ。


「買い出しという事に疑問がおありのようですね。私が嘘をついていると思ってらっしゃいますか」


迷った上、素直に頷くと彼はまた小さく息を吐いた。


「この屋敷は町はずれ。油売りどころか薪売りも来ません。それを得るには街に行くよりないでしょう」


その言葉に、自分の考えの浅はかさを思い知った。

薪も油も、食事を運ぶ人々が置いていっているものだとどこかで考えていた。

しかし、桂乃皇子が、この国が、形ばかりの『正室』にそんな気遣いなどするはずがなかった。

私は『光』を許されなかった身だ。

『温もり』を許されなかった身だ。

夜の闇がいくら深かろうと、風がどれほど冷たかろうと、私には灯りも熱も与えられてはいなかったのだ。

そんな境遇の中、夜の明かりの油を足し、朝には薪を炭にし火つけて部屋を温めていてくれたのは、彼だった。

これ以上迷惑をかけてはいけないと思う前から、私は彼に迷惑をかけていた。

その事に唇の色があせる思いをする。

私が更に沈んだのを悟ったのだろう。

彼がまた、ため息をついた。

何度ため息をつかせたのだろう。

呆れられ、息を吐かれるたび身のすくむ思いがする。

…私は本当に…、至らない。

自己嫌悪にくすんだ時だった。


「…一緒に、行きますか?」


想像もしなかった言葉が降ってきた。

驚いて顔を上げると、どこか困ったような彼と目があう。


…一緒に、行く?

…どこへ?


言われた内容が全く理解できず呆然とする私をしばらく見つめたあと、彼は少しだけ視線を逸らした。

でもそれは私から目を逸らしたというより、外出する為の外の天候を見るためのようだった。

その仕草に、彼の言っている事が本気なのだと知る。


「私を使うのに遠慮が強くて仕方ないのでしょう?ならば一緒にいらっしゃるといい。荷物持ちでもなされば、その呵責も薄れるでしょう」


人を動かすのに気をつかうなら共に動けばいい。

彼はそう言っているのだ。

道理だ。

そうすれば確かに呵責は薄れる。

しかも私はこの国に顔の知られぬ身。

『正室』といえど、披露目の場を設けられなかった身。

街に降りようと大事に至る可能性は薄い。

…でも。


「…いいのですか?」


確実に足手まといだ。

そんなことは想像しなくてもわかる。