(…当然だ)


戦い方、死に方を教える代わりに性欲のはけ口となれと提案した男が『傍にいる』と言っているのだ。

否も応もなく『傍にいる』と。

…怖くないはずがない。


あんなことを、言うのではなかった。

あんな思いを、させるのではなかった。


戦い方の鍛練指導の報酬を『薬草採取の手伝い』に変換したとはいえ、言ってしまった言葉はもう戻らない。

戻せない。

聡明なこの姫は気付いている。

あの時俺が姫を傷つけようとしていたことを。

自分を無条件で傷つけようとしたものをどうして許せようか。

絶望的な後悔を味わいながらも、俺はこの状況を幸運にも思っていた。


(…それでいい)


俯きながらそう思う。


恐れれば
いい。

俺を。

怖がればいい。

もっと。


嫌悪して
憎悪して
そうして距離を
とればいい。


近づくな。
これ以上。

入ってくるな。
俺の中に。


傍にいる。
決して離れず。

そう誓う心と同じだけ、

距離が欲しい。
離れたい。

そう願う心がある。


自覚してしまえば急速に蝕まれていく思いに、眩暈がした。