機嫌が悪い。

絶対今、この人機嫌が悪い。


薄暗い店のカウンターで淡く微笑んでいる美男の心中を察し、私は現在とても居心地が悪い。

おいしいカクテルを出すこの店は、会員制をとっていない気さくなバーで、私のお気に入りの場所だ。

静かに綺麗なアルコールを雰囲気とともにいただくという贅沢は、成人に許された天国だと思っている。

ただ問題が、ひとつある。

カクテルは、おいしいし綺麗。

店内の雰囲気も最高だ。

しかし、「静かにいただく」というのが叶えられたことが少ない。

なぜかというと、原因はそこでカクテルを作っている男性にある。

驚くくらいカッコイいのだ。

彼目的で来店する女性がたくさんいて、
更に彼女たちは自己アピールに全力を注ぐことを躊躇わない。

つまり、ものすごく騒がしい。

せっかくのバックミュージックもかき消え、居酒屋みたいなノリになってしまう。

個人的に、こういう現実と切り離した異国風の雰囲気の中でキャッキャした笑い声は聞きたくない。

もっと我が儘を言えば、「朝マック」とか「カラオケ」という単語すら聞きたくないのだ。

しかし、あくまでお客様相手の男性は話を折ることなく笑顔を保ち続ける。

本当にさりげなく『そんな話はしたくないしお静かに』みたいな牽制が言葉の端々に見えるのに、美男を目前に舞い上がった彼女たちの耳には届かない。

聞こえてるこっちが、申し訳なくなってくる。


そんな女性陣が帰り、店には静寂と私だけが残された。

男性は、甘く微笑んでいる。

けれど、本能的にわかる。


この人、絶対今、機嫌が悪い。