俺の事を唯一心配してくれる人だ。
その人を俺はこんなにも追いつめている。
「那智君が苦しんでいるのは分かるわ。それは…謝る。だけど…授業に出てほしい。あたしのだけでもいいから」
「望さん…無理だよ」
彼女の授業だけ出ても状況は変わらない。
それに…俺は人の集まる場所が好きにはなれない。
「学校…やめたほうがいいだろ?」
俺がそういうと、彼女は首を横に振った。
目には涙をためて、俺の服の裾を掴む。
「…那智君は学校に通ったほうがいい。もっと…自由になってほしいの」
「学校にいても…自由にはなれないよ?」
「でも…家にいても那智君が苦しむのは変わらない。学校に来るのが嫌ってわけではないんでしょう?」
学校は嫌いじゃない。
勉強も嫌いじゃない。
ただ、人の中に入るのが嫌なんだ。
この教室だって、人がいっぱいになると入れない。
授業の間、俺は格闘しなければいけない。
自分の気持ちと。
それが嫌なだけだ。
結局…俺は逃げているんだ。
温かいぬくもりから。
自ら拒否をしているんだ。
「望さん…俺はきっと…他人が苦手なんだ。この教室に入ることすらできない」
いつも入ろうとして、ためらってしまう。
本当は昔のように…授業を受けたいのに。
身体が拒否反応を起こすんだ。
「少しずつでいいよ?那智君のペースで。あたしも協力するから」
そう言って彼女は俺の頭を優しく撫でた。
そのぬくもりは幼いころに感じた、母親に似ていた。

