シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

見渡す限りの本に囲まれた書籍室の中は、外の天気も相まって普段よりもさらに暗い。

外はとうとう降り出してきた雨が容赦なくかかり、書籍室の小さな窓をバシャバシャと洗う。

遠くの方で稲妻が光っているのだろうか、時々外が明るくなる。

エミリーは書籍室に灯りをともすと、専門書のある棚に向かった。

ここには礼儀作法から法律まで、様々な専門書が収められている。

このエリアは城の人たちがもっとも利用するところで、本が規定通りに収まっていない。

上下さかさまになっていたり、別の棚に入れてあったりと整理するだけでも時間を取られる。

「まず、迷子の本を元に戻さなくちゃね」

棚の脇にあるテーブル付きの大きな踏み台を持って来ると、本の整理を始めた。

上下さかさまになった本を元に戻し、種類の違う本を取り出していく。

手際良く整理し終わると、踏み台の次の段に上がる。

その繰り返しで踏み台の一番上まで昇ってくると、最上部に着けられたテーブルの上には本が置きっぱなしになっていた。

「戻していいのかしら・・・”兵士律法”これは・・・」

表紙に書かれた文字を読み、棚に戻そうとしたとき今までにない光が窓から差し込み、轟音が鳴り響いた。

―ゴロッゴロッ・・バリバリバーン――

いつの間にか、雷が城の近くまで迫ってきていたのだ。

窓の外ではバリバリと雷鳴を響かせ、稲光が空を容赦なく引き裂いている。

その恐ろしい音に、思わず耳を塞いで身を固くした。

地の底まで響き渡るような迫力に、一人で書籍室にいるのが途端に怖くなる。

空が稲妻に引き裂かれるたびに、小さな窓がビカビカと書棚の本を照らし、数秒も空けずに轟音がとどろく。

その様はまるで空の神が怒り狂っているように恐ろしい。


―――怖い・・・・。


踏み台の最上部でギュッと瞳を閉じて耳を塞いで恐怖に耐えるエミリー。

稲妻はますます光り、雷鳴は城全体を震わせるほどにとどろく。

あまりの恐ろしさに、身動きもできず、踏み台から降りたくても足がすくんで動けない。


目を閉じたまま震えていると、踏み台がガタッと揺れた。

「きゃっ・・・」

ギシッ・・・僅かな音を立てて再び揺れる踏み台。

―――怖い。誰か・・・。


轟音と、何故か揺れる踏み台に、ますます恐怖を感じてギュッと身をすくめた瞬間

震える身体が温かなものでふわりと包まれた。