シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

静かな庭に突然響いたパトリックの声。

その凛とした響きに驚いた二つの影がビクッと震えた。


「誰だ?ここで何をしていた?」

言いながら近づいて行くと、暗闇の中瞳に映ったのは二人の兵士だった。

兵士たちは手に持っていた物を慌てて懐に隠すと、パトリックの方へ顔を向けた。

月にかかっていた雲が通り過ぎ、徐々に照らされる二人の顔。

一人は薔薇園であの時自分が腕を捻り上げた者。

もう一人は・・・誰だ?見かけない顔だが・・・。

私の知らない兵士がいるのはおかしい。


兵士たちは近づいてきたのがパトリックだと分かると、慌てて傍まで走り寄ってきた。

「パトリック様。私たちは塔の警備を・・・。任務中でございます」

頭を下げて俯いたまま、見知らぬ兵士が答えた。

「この塔の警備はウォルターの配下のはずだが?」

妖しい気配を見逃すまいと、兵士たちの動きを注意深く見つめる。

「今夜は雲に隠れがちで月明かりも暗く、警備を強めるよう命じられました。私たちは王の塔のほか、ここも重要な警備対象だと判断した次第です」

二人とも瞳を伏せたまま、目を合わせようとしない。


「お前は、あの時の兵士だな?見たところ、腕はもう治ったようだな・・・。お前は、剣の腕はいいとレスターに聞いた。体力があるのは評価できるが、もっと規律をわきまえて行動すべきだ。分を超えた行動は時に誤解を生む」

ブルーの瞳に威厳を漂わせて兵士たちを見据えるパトリック。

「申し訳ありません・・・以後気をつけます」

兵士たちはずっと俯いたまま。

その様子は何かを気取られないよう、必死に隠しているようにも見える。


「もういい。ここには時期にウォルターの部下が見回りに来る。お前たちは自分の持ち場に戻れ」


「―――失礼いたします」

頭を下げて立ち去って行く二人。

その後ろ姿を見送る訝しげなブルーの瞳。



―――ここで何をしていた?


高木の下、兵士たちのいた辺りに来ると、あちこち瞳を走らせる。

何もない・・・ここで何かをしていた形跡は全くない。

私の思い過ごしか―――?



「パトリック様ではありませんか?」

不意にかけられた声に振り返ると、警備兵二人がランプを持って、いそいそと此方に歩いてきた。

「あぁ、夜の警備ご苦労様。今夜は月が暗い。心して見回ってくれ」

微笑みを向け兵士たちを労うと、訝しい思いを抱えながら馬車止まりに戻った。