政務塔の玄関脇まで来ると、向き合うように立ち止まった。
「行きたいところがある。もう少し私に付き合って欲しい。馬で出かけるんだが・・・今夜は慣れない会食もあった。疲れただろう?君が嫌なら辞める」
両手を握って、少しの疲れの色も見逃すまいとするように、アメジストの瞳を覗き込んでいる。
心配そうなブルーの瞳を見つめ、微笑みを返すエミリー。
「いいえ、大丈夫です。アラン様こそお疲れでしょう?」
昨日からの長旅の上、帰城してすぐに公務をこなして・・・。
いくら体力があるとはいえ、疲れているに違いない。
一刻も早く休みたいと思うのが普通だろう。
一日中部屋の中で本を読んだりしていた自分とは違うのだ。
そんな人に疲れたなどとはとても言えない。
「―――私は大丈夫だ。では、参るとしよう」
急にフイッと横を向いてそう言うと、再び腰に腕をまわして馬車止まりへ向かった。
馬車止まりには、二人乗り用の蔵が取り着けられた馬が一頭と、黒塗りのシンプルな馬車が停まっている。
馬の傍には使用人がショールのような布を持って立っていた。
「馬に乗るのは初めてだろう。大人しく乗っていれば大丈夫だ」
言いながら、膝に腕を差し込むと抱き上げて馬の背に乗せた。
そして自分も乗り込むと、使用人から受け取ったショールをエミリーの肩に羽織らせ、静かに馬を進めた。
馬は城門ではなく、王の塔の方へ向かっていく。
さっきまで楽しげな会話が交わされていた食堂の中には、国王と皇后の姿はすでになく、忙しげに片付け物をする使用人たちの姿が見える。
―――パトリックさんは、もう帰ったかしら。
あの時、話が途中で終わってしまって失礼なことをしてしまった。
今度手料理をご馳走して、その時にハンカチを返そう。
いつが良いかしら・・・・パトリックさんは忙しい方だし。
わたしのために時間を作ることなどできないかもしれない―――
ぼんやりと考えているうちに、馬はいつしか塔の裏手へまわりこみ、黒い木々が立ち並ぶ林の中へと入って行った。
今夜は新月のためにもともと薄暗い。
林の中にはうっそうと茂る枝の葉に遮られ、光はまったく届かない。
暗闇の中馬の首にかけられているランプの明かりだけ頼り。
耳に聞こえるのはサクサクと進む馬の足音のみ。
こんな夜にどこに行くというのだろう・・・。
急に不安な気持ちが湧きあがり、手綱を持つアランの袖をきゅっと掴んだ。
「行きたいところがある。もう少し私に付き合って欲しい。馬で出かけるんだが・・・今夜は慣れない会食もあった。疲れただろう?君が嫌なら辞める」
両手を握って、少しの疲れの色も見逃すまいとするように、アメジストの瞳を覗き込んでいる。
心配そうなブルーの瞳を見つめ、微笑みを返すエミリー。
「いいえ、大丈夫です。アラン様こそお疲れでしょう?」
昨日からの長旅の上、帰城してすぐに公務をこなして・・・。
いくら体力があるとはいえ、疲れているに違いない。
一刻も早く休みたいと思うのが普通だろう。
一日中部屋の中で本を読んだりしていた自分とは違うのだ。
そんな人に疲れたなどとはとても言えない。
「―――私は大丈夫だ。では、参るとしよう」
急にフイッと横を向いてそう言うと、再び腰に腕をまわして馬車止まりへ向かった。
馬車止まりには、二人乗り用の蔵が取り着けられた馬が一頭と、黒塗りのシンプルな馬車が停まっている。
馬の傍には使用人がショールのような布を持って立っていた。
「馬に乗るのは初めてだろう。大人しく乗っていれば大丈夫だ」
言いながら、膝に腕を差し込むと抱き上げて馬の背に乗せた。
そして自分も乗り込むと、使用人から受け取ったショールをエミリーの肩に羽織らせ、静かに馬を進めた。
馬は城門ではなく、王の塔の方へ向かっていく。
さっきまで楽しげな会話が交わされていた食堂の中には、国王と皇后の姿はすでになく、忙しげに片付け物をする使用人たちの姿が見える。
―――パトリックさんは、もう帰ったかしら。
あの時、話が途中で終わってしまって失礼なことをしてしまった。
今度手料理をご馳走して、その時にハンカチを返そう。
いつが良いかしら・・・・パトリックさんは忙しい方だし。
わたしのために時間を作ることなどできないかもしれない―――
ぼんやりと考えているうちに、馬はいつしか塔の裏手へまわりこみ、黒い木々が立ち並ぶ林の中へと入って行った。
今夜は新月のためにもともと薄暗い。
林の中にはうっそうと茂る枝の葉に遮られ、光はまったく届かない。
暗闇の中馬の首にかけられているランプの明かりだけ頼り。
耳に聞こえるのはサクサクと進む馬の足音のみ。
こんな夜にどこに行くというのだろう・・・。
急に不安な気持ちが湧きあがり、手綱を持つアランの袖をきゅっと掴んだ。


