シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

まただ―――

彼女のこんな表情を見るのは、これで二度目だ。

薔薇園から塔まで送っていくとき、あの時もこんな顔をしていた。

あれは恐怖のためだったが・・・今は何が原因だ?

もしや今ここに居ることがダメなのか?

今すぐ傍に寄って、手を握ってやりたい。

そして、大丈夫だと、怖いものは何もないと、声をかけてやりたい。

私が守ってあげるからと、そのまま屋敷に連れ帰りたい衝動にかられる。

だが、今は公式の場ではないとはいえ、国王と皇后の面前だ。

彼女の立場が悪くなるような行動は控えねばならない。

ここは退室を願い出るのが得策だろう。


――――っ・・・

「父君、そろそろ・・・」

パトリックが言いかけた言葉を飲みこむように、アランが先に声をあげた。

「そうじゃな。いや、楽しかった。あっという間に時間が過ぎてしまった」

「楽しかったわ。またご一緒しましょうね」

国王と皇后はエミリーを気に入った様子で、また一緒に食事をと誘ってくる。

「はい」

胸が詰まっていて、一言でしか返事を返せない。

様子がおかしいことに気付いたのか国王と皇后は訝しげな顔を向けてくる。

「今度、私が郷土料理を作って、ご馳走いたしますわ」

湧きあがった思いに蓋をし、振り払うように作った微笑みを二人に向けた。


隣で席を立ったパトリックが、丁寧に頭を下げて退室の挨拶を始めた。

エミリーも挨拶をしようと立ちあがろうとした時、武骨な手が目の前にサッと差し出されてきた。

見上げるとアランが柔らかな微笑みを向けている。

しかし、何故かブルーの瞳には哀しげな色を含んでいる。

―――――――?

そう言えば、さっきラステアの話をしていたし・・・。

テラスでも様子がおかしかったし、何か嫌なことでも思い出したのだろうか。

そんな表情にさせているのは自分だと気づかないエミリーは、勝手にいろんな想像を巡らせる。


差し出されている武骨な手に重ね、立ちあがって国王と皇后にお礼の言葉と退室の挨拶をした。