シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「おぉ、そうじゃな。これは愉快じゃ」

からかうような瞳をアランに向ける国王。

さっきから何を言っているのか意味が分からないエミリー、アランの隣でキョトンとした表情をしている。

パトリックは会話の内容が可笑しいのか、さっきから必死に笑いを堪えている。

その様子に首を傾げるも、ただ、二人が自分に会いたがっていたことだけは分かった。

「わたしも、国王様と皇后様にお目にかかりたいと思っておりました」

「それは良かった。急な招きで悪かったのう。よくぞ参ってくれた」

国王は申し訳なさそうにエミリーを見つめる。

そのアランと同じブルーの瞳には、威厳に満ちた中にも優しさを含み、エミリーの心の中を見通すような輝きを放っている。

「ぃ・・・」

「国王様、そろそろお食事を―――」

エミリーの開きかけた口を遮るように、給仕を呼ぶパトリックの声が響いた。

「おぉ、そうじゃの。食事を始めよう」

パトリックの隣の席に案内され、斜め前に国王、目の前には皇后がいて、その隣にアランが座った。

エミリーが話す異国の話は、会食に訪れた皆の興味を引いている。

身を乗り出して聞く皇后。

たまに笑い声も上がるこの席は、緊張しながらも楽しく

会食は恙無く進み、最後のデザートが運ばれてきた。


会食の間中、時々目の前で交わされる親子の会話を聞いていると、家族って良いものだなと改めて思う。

イギリスの両親は今頃どうしているだろう。

二人っきりで食卓を囲んでいるのだろうか。

娘がいつも座っていた場所はずっと空席のままで。

きっと哀しく寂しい思いをしているに違いない。

自分がこうして楽しい食事をしていることが、途端に、してはいけないことのような気がしてくる。

暫く影を潜めていた思いが急に湧きあがってくる。

アメジストの瞳が徐々に曇り、長い睫毛が瞳を隠し始める。

手は膝の上でギュッと握りしめられる。



「エミリー?・・・気分でも悪いのかい?」

隣から囁くような声が聞こえた。

見ると、覗き込むようにしているパトリックが心配そうな顔を向けている。


「そんなことありません。大丈夫です」

少し潤んだ瞳で、何でもないと手を振って合図した。


そんなエミリーにパトリックはまたも感情を揺さぶられてしまう。