シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

頬から離れた手は、そのまま自然に後髪に差し込まれ、ゆっくりと引き寄せられ―――

ポスンという音とともに、アランの逞しい胸に押し当てられた。

―――い・・・息が・・・苦しい・・・

ちょうど鼻が塞がれてしまい、息ができない。

なんとか離してもらおうともがき、胸に手を当てて力を込めて何度か押してみた。

すると、ぱっと手が離され、急に自由になった頭がくらりと後ろに倒れていく。

刹那、伸ばされた腕が背中にまわって、今度は身体ごとすっぽり腕に包まれてしまった。

何故だか、次第に力が込められていく。

椅子に座っていたはずの身体は浮きあがり、今やアランの膝の上に乗っている状態になってしまった。

耳元でアランの規則的な息遣いが聞こえる。



ラステアで何かあったのだろうか。

何か悪いものを食べたとか・・・?

もう、何がどうなっているのか訳が分からない。

心臓は益々激しく脈打ち、頭と頬は熱を帯びる。


「ぁ・・・あの・・・アラン様?」

やっとの思いで声を出して呼びかけるエミリー。

すると背中にまわされていた腕が徐々に緩まり、ふわりと椅子に戻された。


「すまない・・・つい―――」

言いながら立ち上がると、ブルーの瞳が少し揺れている。

思案げに口元に手を当てているその姿は、自分の所業を後悔しているようにも見える。

アランの中で何か結論に至ったのだろうか、改めて此方に向き直ると手を差し出してきた。

その瞳はとても真摯で、すっと伸ばされた手は目の前で”立って欲しい”と促している。

その手を見つめながら、何を考えているのか分からず戸惑って、身体の前であたふたと腕を動かす。


「・・・全く、君は」

そう呟くと、口元を緩ませて、動き回って落ちつかないでいる手を掴んだ。

そして身体はアランと向き合うように正面に導かれ



「暫くそのままで。動かないで欲しい」