シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

エミリーは今日もさわやかな風の吹く中、テラスで本を読んでいる。

傍にある丸いテーブルの上には銀のしおり。


白い柵の上に1羽のブルーの小鳥が羽を休めにやってきた。

小鳥の奏でる歌声のような囀りに、読んでいた本から目を離す。

小鳥はエミリーの前で楽しげに囀っている。

あまりの可愛さに思わず手を伸ばすと、羽をバタつかせて飛んで行ってしまった。

「いいわね。羽根があって」

しおりを挟んで本をテーブルの上に置くと、立ちあがってテラスの柵に身体を預けた。


背の高い木々の向こうに垣間見える薔薇の苑。

何時間でもぼんやりと過ごせるような、そんな居心地のいい空間だった。

あの時、あんな事さえ起きなければ、もう少し居られたのに―――。

あの男たちのニヤケ顔を思い出すと、むかむかと腹が立ってくる。

「今度は花が満開のころに行きたいわ」

城の敷地内にあるのに、目の前に見えるのに、美しい薔薇の苑はとても遠くに感じた。

エミリーは諦めたようにため息を一つ吐くと、本を読むべく再び椅子に座った。


本は今、2つ目の神話を読み進めているところだ。

この世界の神話は故郷に伝わっているそれとは違い、とても興味深く面白い。

温かな日差しの差す午後のテラス、夢中で本を読む瞳。

辺りは静寂でページをめくる音しか聞こえてこない。


どのくらい時間が経っただろう―――。


コンコンッ


突然静かな空間に割り込むように響く音。

エミリーの部屋の扉を叩く音。

こんな時間に誰だろう・・・この部屋に訪ねてくる人は滅多にいない。

来るのは、メイか、ウォルターか、護衛の人。


今の時間は・・・仕事が早く終わったメイかしら・・・。