シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

時は戻り―――

ここはギディオンの城の中、朝日の差すアランの塔。

いつもの時間。

いつものように食堂に向かうエミリー。

途中ですれ違うメイドや使用人たちに挨拶を交わしながら

いつもの護衛に連れられて食堂に向かっている。


いつもと違うのは、今朝もアランがいないことだ。

アランは明後日帰ってくる予定だ。

メイの話によると、ラステア王国からは早くても馬車で一日かかるので、朝向こうを出ても到着するのは夜になるそうだ。

随分長い間顔を見ていない気がする。

城で生活を始めてから、一日も欠かさず朝食を共にしてきた。


今頃何をしているだろう。

ラステアで朝食を取っている頃だろうか。

いつもの無表情な顔でどんな外交をしているのだろう。

もしかしたら、まだ見たこともないような顔をしているのかもしれない。

引き攣った笑顔を作っているアランを想像して苦笑する。

帰ってきたらラステアのお話をしてもらおう。


護衛の手がいつものように食堂の扉を開ける。


「おはようございます、エミリー様」


給仕たちがいつものように笑顔で迎えてくれる。


今日も、アランのいない一日が始まる。