シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「アラン様、宜しいのですか?」

事の成り行きをじっと見ていたウォルター。

国の外交にかかわるような事態に内心ハラハラとしている。

ラステアは小国とはいえ、豊かな作物と漁獲量を武器に他国との国交を深めている。

ギディオンの方が国としては強いが、周辺諸国の中でも決して無視はできない存在だ。

もう一日くらい滞在を延ばせばいいのに。

というか、もともとの日程はまだ残っているではないか。

何故急いで帰国しようとするのか。

ウォルターはアランの行動が理解できない。


「大丈夫だ。お前が心配するようなことではない。

明日は早い。しっかり準備しておくように」


ウォルターは無言で頭を下げると、指示を出すため足早に部下の元へ向かった。



アランは滞在中過ごしている客室に戻ると、早速荷造りを始めた。

ギディオンの寝室に比べれば小さな部屋だが、客人を迎える部屋だけあり、窓からの眺望は素晴らしい。

眼下に広がる湖面は風に揺られて静かに波打ち、二つの月に照らされ、キラキラと妖しい光を放つ。

雲ひとつない夜空に星は降るように瞬き、湖面の煌きと相まって見るものを魅了する。

時計の針は11時を指している。

入浴を済ませたアランが部屋に戻ると、コンコンと小さなノック音が響いた。

―――こんな時間に誰だ?

アランはタオルを首にかけたまま、扉に向かうと声をかけた。

「誰だ?ウォルターか?」

扉の外はしんと静まり返り、声は届いてこない。

暫く続く沈黙―――

アランは脇に立て懸けてある剣を手に取ると扉をそっと開けた。



薄暗い廊下に佇んでいたのは

思いつめたような顔をしたマリア姫だった―――