シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

「ね、アラン様?・・・あと、一日くらいならいいのでしょう?」

ひたっと擦り寄せていた頬を離し、胸は腕に押しつけたまま、うるんだ瞳でじっと見つめる。

マリア姫の得意な男を虜にする仕草だ。

「せっかくのお誘いですが・・・国で取り急ぎ処理したい案件がございますので、明朝には出立いたします」

ヒルのようにくっついているマリア姫の体をグイッと引き剥がしながら、外交的な微笑みを向ける。

そして、丁寧に頭を下げ挨拶すると音楽の鳴る広間へ戻った。



国王に帰国の挨拶をしたところ――――。

「明日お帰りになるのですか?もう少し、ゆるりと滞在なさっていただけるものと思っておりましたのに。

明日はマリアが是非お連れしたいところがあると、張り切っておりましたのよ」

王妃はアランにもう少し滞在を延ばして欲しいようだ。

様子を窺うようにこちらを見ているマリア姫を、気遣うような眼差しを向けている。


マリア姫は背が高く豊満な胸もあり、どんなドレスも着映えするように、スタイルはとても良い。

顔立ちも目鼻立ちがはっきりとしていて、派手なメイクがとても映える。

こと容姿においてはラステア一番だと自負している。

大抵の男は擦り寄ってお願いすれば言うことを聞いてくれるし、マリアのために何でもしてくれる。

しかしアランは違う。

女の色香を武器に迫っても無表情のまま、眉ひとつ動かさない。

余程プライドを傷つけられたのだろう、さっきから唇を噛みしめている。

王妃がアランへのお願いを口にする度、プライドはますます抉られる。

マリア姫は俯き、ひたすら唇を噛みしめる。


「王妃よ、そう無理を言うでない。アラン王子はお忙しい身じゃ」

国王は窘めるように王妃に言うと、アランに瞳を向けた。

「今度はギディオンに招待してくれるそうじゃ・・・?」

有無を言わせぬ眼差しにアランは無言で頷くと

「明朝には出立する所存・・・。準備がありますので、今夜はこれにて失礼いたします」

丁寧に頭を下げ、広間を後にした。