シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

時は遡って、エミリーが薔薇園でパトリックに助けられた日の夜。

ここは水の国、ラステア王国。

アランは舞踏会の広間から抜け出し、テラスで風にあたっている。

ラステアの城は湖の傍に建っており、眼下には広大な湖が広がっている。

空にはギディオンと同じく二つの月が昇り、湖に幻想的な光を落としている。

「アラン様、明日お帰りになると言うのは本当ですか?

我が国での滞在日程はまだ残っておりますのに・・・。

明日、是非お連れしたいところがございますの」

そう言いながらひたっと身体を擦り寄せるのは、この国の姫、マリアだ。

以前国王とともにギディオンに訪れた時に会って以来、アランのことが気になっているマリア姫。

これを機会に仲を深めたいと、胸の開いたドレスで着飾り、さっきからあの手この手で迫っている。


広間の方では軽やかな音楽が鳴り、煌びやかに着飾った紳士淑女がダンスを楽しんでいる。

宴も終盤にかかり、すっかり酔いのまわった髭の侯爵が大声で息子の自慢話をしているのが、さっきから聞こえてくる。

こうしてテラスで夜風に当たる前に、アランもラステアの重臣たちに挨拶をし、令嬢たちとのダンスのお相手も一通り済ませた。

舞踏会に招かれたのは国王である父君だったが、急用ができたと言って代わりに行くよう命じられた。

どうせ行くのならと、市場の視察なども日程に組み込んで来たが、舞踏会とは口実で、実際はマリア姫とのお見合いみたいなものだった。

ラステアに着いた当初から今現在まで、何をするにもマリア姫が同行してくる。

本人は外交のためと言っているが、アランを見つめるその瞳はねっとりとした女の色香を含んでいる。


ラステアは水が豊富なため、農耕と漁業が盛んだ。

市場にも活気があり、森の国と言われているギディオンとは違う品物がたくさん並んでいた。

この国との繋がりを持てば、ギディオンにとっても良いことには違いない。