シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

空には二つの月が昇り、辺りは暗闇に染まる夜。

ギディオン王国の街外れの古い屋敷。

庭には雑草が生い茂り、全ての窓は固く閉ざされ、鍵の壊れた門扉は風に揺られてキイキイと音を立てている。

周りには木がひしめくように立ち並び、ここより他の住居は一つもない。


そんな屋敷の奥深く、蝋燭の灯り一つの薄暗い部屋の中、男たちは簡素な椅子に座っている。

3人いる男のうちの一人は腕を痛めているのか、包帯をして首から釣っている。

さっきから顔を寄せ合い、ヒソヒソ話をしている男たちはなんだか焦っているようにも見える。

ギイッと音をさせながら開かれる扉を見ると、男たちは急に黙り込む。

薄暗い部屋の中に廊下から光が差しこんでくる。

灯りに照らされる男たち。

部屋に入ってくる人物が余程怖いのか、目を合わさないように顔を伏せている。

黒い服を着たその人物は、俯いたまま座っている男たちをちらっと見ると壁際に置いてある背の高いひじ掛け椅子に座った。

暫くの沈黙―――

「失敗したそうだな・・・?お前たちは、娘一人連れてくることができないのか?」

静かだが苛立ちの色を含んだ声で、男たちに問い掛ける。

「申し訳ございません。あの娘、思いのほか強情で・・・。

それに、思いもよらぬ邪魔も入りましたし」

男の一人が青ざめ、吹き出す冷や汗を拭いながら報告をする。

「邪魔―――?」

「はい。パトリック様でございます」

「チッ!パトリックの奴め・・・帰ってきていたか」

黒い人物は忌々しげに舌打ちをすると、傍にあった机を叩いた。

「でも、何故あの娘を?・・・そりゃ確かに綺麗な娘でしたが・・・」

男たちは娘を連れてくるよう言われたが、その理由までは知らない。

「お前たちは余計なことを考えずとも、あの娘をここに連れて来ればいいのだ。分かったな!?」


アランの居ぬ間に手に入れようと思ったが、思わぬ伏兵が残っていたか。

早く、あのお方に娘を差し出さなければ―――。

黒い人物は焦りの色を隠せなかった。