シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】

銀髪にブルーの瞳、優しげなオーラを放つこの方は―――

面識はないが、アラン様の従兄弟のパトリック様に違いない。

メイドの自分に微笑みかけ、しかも”待っていた”と言う。


待っていたって・・・。

どれほどの時間、ここにいたのだろう。

週末の使用人の門限は決まっているが、この塔にいつ帰るともわからないのに。

この方はここで自分を待っていたと言う。

私などに何の用事があると言うのだろう・・・。

そんな状況に恐縮し、慌てて居住まいを正して頭を下げる。

「パトリック様、私に何か御用でしょうか」

緊張しながらも言葉を待つ。

「あぁ、実はね・・・・。驚かないで聞いてほしいんだが・・・・」


パトリックは落ちついた口調でエミリーが怪我をして部屋で休んでいること、自分がその場に偶然居合わせたことを、襲った男たちのことは上手く省いて説明をした。


「医官に診せた方がいい。

分かると思うが―――私が連れていくことができないのでね。

すまないが君にお願いしたいんだが、いいかい?」


「もちろんです。パトリック様」

答えながらも、突然のことに驚きを隠せない。

話を聞いているうちも、顔から血の気が引き、みるみる青ざめていったのが自分でもわかる。

自分がいない間に怪我をさせてしまったことに責任を感じてしまう。

パトリックはそんな気持ちを推し量ったように、言葉を続けた。

「君が責任を感じることではないからね。それから、私がここで君を待っていたことは内緒にしてくれるかい?」

「はい。パトリック様」

「よかった」

安堵の色を浮かべて微笑むパトリック。

その優しさに何度も何度も頭を下げて感謝の言葉を伝えると、持っていた荷物の重さも気にならないほどに塔の中へと走った。